SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2025
SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2025
データサイエンスの進化とデータインテリジェンスの深化
2025年3月14日に開催したSHIONOGI DATA SCIENCE FES 2025をレポートいたします(※本イベントの詳細はこちらでご確認ください)。
当日は約1,100名の方にご参加いただき、多くの方にご興味を持っていただけたことを嬉しく思うとともに、本イベントが”協創”の場となれば幸いです。
Session 1:企業活動を支えるデータサイエンス
近年、病気の早期発見や治療のカスタマイズ、医療コストの削減など、ヘルスケア分野における人工知能、データサイエンスの活用が加速しています。Session 1では、ヘルスケア業界の最新の動向と今後のビジネスの展望について紹介されました。
Personal Health Recordを活用した健康経営の取り組み
桂木 龍一(塩野義製薬株式会社 データサイエンス部 データエンジニアリンググループ サブグループ長)
中野 紗希(塩野義製薬株式会社 データサイエンス部 データサイエンス2グループ)
データ駆動型の意思決定:シミュレーションと最適化がもたらす可能性
小林 雅行(塩野義製薬株式会社 データサイエンス部 コンピュータサイエンスグループ)
小林:SHIONOGIでは、データ可視化の民主化を進めつつ、シミュレーションや最適化技術を活用した高度な意思決定に繋げています。データの可視化は、データを理解する上で最も基本的で重要なステップです。SHIONOGIでは、データの検索から利用申請、蓄積加工、可視化まで全てが一気通貫になったデータ可視化基盤を整備し、全従業員にBIツールのライセンスを付与しています。これにより、ダッシュボードは誰かに作ってもらうものではなく、必要な時に必要な人が作るという体制を実現しています。さらに、可視化だけでなく未来の状況を予測するためには、シミュレーション技術との融合が重要です。Pythonなどのプログラミング言語との連携が容易な環境を活かし、例えばマーケティング支援で販売予測やマーケティング施策と売上の効果検証シミュレーションを行っています。モンテカルロシミュレーションなどを用いて、無数のシナリオを発生させ、リスクを定量化・可視化することで、確率的に物事を評価し、より客観的な意思決定ができるようになりました。また、量子技術の獲得にも取り組んでいます。量子コンピュータには、最適化に特化したアニーリング方式と汎用型のゲート方式があり、アニーリング方式ではMR(医薬情報担当者)の訪問経路最適化などの実証実験を行っています。また大阪大学の量子ソフトウェア勉強会に参加し、ゲート方式も含めた技術獲得を進めています。このように社内のDXを推進するため、データ利用・活用による意思決定を全ての従業員にとって身近なものにするよう取り組んでいます。
【特別講演】SHIONOGIにおけるデータサイエンスの現在
手代木 功(塩野義製薬株式会社 代表取締役会長兼社長 CEO)
手代木:SHIONOGIは新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を作り出すというVisionを掲げ、中期経営計画「SHIONOGI Transformation Strategy 2030」のもとでVision実現に邁進しています。さらに、2023年6月に発表した「STS2030 Revision」では、計画を具体的な成長戦略としてアップデートし、注力するCOVID-19やHIVを始めとする感染症治療薬をグローバルに届けていくことや、積極投資による新製品・新規事業の拡大を成長の軸に置きました。医薬品・ヘルスケア業界は、高齢化に伴う医療費増大、薬価制度改定、労働力不足といった複合的な課題に直面しています。また、企業においては、健康経営の推進や従業員の健康維持増進が重要視されています。SHIONOGIはDX推進本部を中心に、データ利活用基盤の整備、アルゴリズム開発・解析技術の獲得と適用を通じて、企業活動におけるデータ活用を推進しています。特に生成AIを含めたデジタル技術やPHRデータなどのヘルスケア領域で注目されている先進的な技術やノウハウを活用したヘルスケア課題の解決を進めています。データ利活用基盤の整備については、セントラルデータマネジメント構想として、必要なデータを適切な形で収集・整形し、個人情報等のコンプライアンスにも配慮しながら、秩序あるガバナンスのもとで管理・共有するデータ管理基盤および高速で効率的な解析を可能にするデータ解析基盤の構築を進めてきました。特に、データの信頼性とデータフローの透明性を重視した設計により、リアルワールドエビデンスによる医薬品の価値創出にも貢献できるようになっています。また、DX浸透に必須の人材育成については、全ての職種に対してスキル要件を洗い出し、リードレベル、メンバーレベル、エントリーレベルにグループ分けし、人員分布を可視化する取り組みを行っています。これにより、従業員は自分自身がどのような専門性が求められているかを理解し、自律的なキャリア開発が促進されています。経営層としても、SHIONOGIの成長に必要な人材育成ができているかを確認できるようになりました。
Session 2:データサイエンス最前線 ー 生成AI / AI倫理
生成AIの台頭により、データサイエンスの可能性はさらに広がっています。Session 2では、急速に進化するAIテクノロジーの社会実装およびAI倫理について紹介されました。
【基調講演】急速に進化するAIテクノロジーの社会実装およびAI倫理
谷口 潤氏(株式会社日立製作所 執行役常務 デジタルエンジニアリングビジネスユニットCEO, 日立デジタル社CEO, 日立アメリカ社取締役社長兼CEO)(2025年3月時点)
吉田 順氏(株式会社日立製作所 Generative AIセンター センター長 兼 Chief AI Transformation Officer)(2025年3月時点)
谷口氏:日立はデータとテクノロジーでサステナブルな社会を実現し、人々の幸せに貢献するというパーパスのもと、社会イノベーション事業を推進しています。日立には3つのビジネスセクター(デジタルシステム&サービス、グリーンエナジー&モビリティ、コネクティブインダストリーズ) があり、この3つを融合して、プラネタリーバウンダリーとウェルビーイングに貢献していくのが事業ポートフォリオです。デジタルはどのビジネスセクターでも不可欠な要素となっており、Lumada(イルミネート+データを掛け合わせた造語で、データに光を当て価値を生み出すデジタル事業ブランド)という戦略のもと、全社のデジタルトランスフォーメーションを進めています。(※ 2025年3月講演時点の情報。2025年度は4つのセクター(デジタルシステム&サービス、エナジー、モビリティ、コネクティブインダストリーズ)で事業運営を行っている。)
吉田氏:日立グループ内でのAI活用について、2022年にChatGPT登場後、300人規模の社内有識者グループを即座に立ち上げ、ビジネス展開を検討しました。現在、グループ全体で約27万人の従業員のうち、4-5割が日々AIを活用しています。トップダウンとボトムアップの両面からAI実装を進めており、経営幹部自らAI活用を推進する一方で、勉強会やコミュニティ活動を通じた草の根的な取り組みも行っています。生成AIの使い方は、オフィスワーカー向けの作業支援、業務部門や間接部門での活用、そして業界特有のユースケースの3つに分けられます。具体的な事例としては、システム開発工程で3割の工数削減、カスタマーサービス業務の効率化、経営幹部によるAI活用などがあります。また、AI倫理については、2000年から倫理審査委員会を設置し、2014年にはプライバシー保護諮問委員会を設立、2021年にはAI倫理原則を策定しています。2023年には生成AI活用ガイドラインも策定し、時代に応じた柔軟な対応を行っています。
SHIONOGIにおける生成AIの真価〜全社データ活用と価値創出への道筋〜
西村 亮平(塩野義製薬株式会社 データサイエンス部 Generative AI グループ グループ長)
松野 匡志(塩野義製薬株式会社 データサイエンス部 Generative AI グループ)
西村:2024年10月に発足したGenerative AIグループの活動について紹介します。大きく3つの活動に取り組んでいます。1つ目は意思決定支援です。SHIONOGIはリスクテイキングかつチャレンジングなビジネスを戦略的に迅速に推進していきたいと考えていますが、そのためには網羅的で妥当的なリスクマネジメントと意思決定にまつわるコミュニケーションコストの低減が必要です。そこで役員層の議事録解析や戦略的思考プロセスのモデル化、役員クローンAIの開発などを進めています。2つ目は必要なデータを迅速に抽出できる状態にすることです。Snowflakeを中心としたデータリポジトリを構築し、外部内部を問わないデータ接続とアクセス経路の整備を進めています。3つ目は今できることをすぐやることです。汎用的に誰もが使うサービスを素早く推進し、小さな成功を量産することで、多くの社員がその効果を実感できる土壌を作っています。
松野:SHIONOGI社内におけるメディカルライティング業務効率化プロジェクトについて紹介します。医薬品開発では各フェーズにおいて様々な規制文書を作成する必要があり、特に治験総括報告書(CSR)は臨床試験の結果をまとめる重要な文書です。この文書作成には多大な時間がかかるため、生成AIを活用した効率化に取り組んでいます。CSR作成アプリケーションでは、テンプレートを読み取り、臨床試験の計画書やデータを参照しながら文書の下書きを生成します。また文書検索アプリでは、メディカルライティング担当者が参照する文書を効率的に検索できるようにしています。事業部門との密なコミュニケーションを通じて、実務担当者が本当に必要とする機能を実装し、横展開可能なアーキテクチャで開発を進めています。今後も社内の各部門と連携し、AIプラットフォームの統合的な活用を推進していきます。
データサイエンスの進化で高まるデータ倫理の重要性
木口 亮(塩野義製薬株式会社 データサイエンス部 コンピュータサイエンスグループ グループ長)
木口:データサイエンスは18世紀からの統計学を起源とし、20世紀のコンピュータ登場、1950年代のデータベース概念の出現、機械学習の発展を経て、2000年代のインターネット普及によりビッグデータ時代を迎えたことで学問として社会認知されました。現在はPHRなどの大規模な個人データも取得できるようになったことで、より身近なデータの活用が進み、それに比例するように個人情報や倫理の観点も注目を集めるようになりました。SHIONOGIのデータサイエンス部では、データサイエンス活動として、主に生産性向上、エビデンス創出、ソリューション開発という3つに取り組んでいます。特に業務効率化とエビデンスの創出では、レセプトデータなどのリアルワールドデータを活用し、社内の各部門を支援しています。また、ソリューション開発の一例としては、AI-SAS(AI SAS Programmer)というシステムがあります。これは臨床試験の解析業務を効率化するためのAIシステムで、SASプログラムを自動生成し、1試験あたりの標準作業時間の30%を削減することができます。こうした開発を社会に役立てるため、外部に提供・販売しています。データサイエンス活動においては、倫理的な配慮が重要です。データの取得から保存・管理、成形、解析、アウトプットに至るまでの各段階で、同意取得やプライバシー、セキュリティ、説明可能性、透明性といった点に注意する必要があります。SHIONOGIでは、Data ethics Canvasを用いた組織評価、AI actフレームワークに基づくリスク評価、データトレーサビリティを確保するためのMLOpsの構築など、具体的な施策を実施しています。日本ではまだデータ倫理の議論が十分でない面もありますが、今後より一層重要になってくる領域であり、積極的に取り組んでいきたいと考えています。
Session 3:データサイエンスを支えるデータエンジニアリングの今
データサイエンスを活用して、企業経営にインパクトを与え、ヘルスケア業界に変革を起こすためには、データエンジニアリングをいかに適切に行うかが重要です。Session 3では、データエンジニアリングに関する具体的な取り組みが紹介されました。
【基調講演】データサイエンスを支えるデータエンジニアリングの重要性
齋藤 祐希氏(株式会社NTTデータ ソリューション事業本部 デジタルサクセスソリューション事業部 データマネジメントPF統括部 課長)
齋藤氏:データエンジニアリングは、IPA(情報処理推進機構)の定義によると「効果的なデータ分析環境の設計・実装・運用を行うこと」です。広義のデータサイエンティストの中でも、データエンジニアは環境構築やデータ整備を担当する役割です。データエンジニアには、システム開発、クラウド、セキュリティなど幅広いスキルが求められ、NTTデータでは、2024年4月時点で専門認定を受けたデータエンジニアサイエンティストが約100名(データエンジニアは約3割)在籍しており、AI・データ活用を支える高度専門職として人財育成の注力強化を進めている領域です。AIモデル開発において、Data-Centric AI(DCAI)の重要性が高まっています。モデルのアルゴリズム調整よりも、質の高いデータを用意することで精度向上が見込めるというAndrew Ng氏の実験結果から、データエンジニアリングはデータサイエンティストにとっても重要なスキルになってきています。また、クラウドサービスの進化により、モデル作成は民主化されつつあり、今後はデータの質を高めることで差別化されていくでしょう。AIをビジネスに活用する全プロセスにおいて、モデル開発はその一部ですが、実際には、データの収集・蓄積・加工、モデル管理、システム化、監視までを含めたMLOpsが重要になります。したがって、生成AI時代においても、基盤となるデータエンジニアリングの重要性は変わらず、むしろ非構造化データの活用などで重要性が増しています。AIエージェントの開発では、データプラットフォーム、従来のAI、生成AIを統合したオールインワンプラットフォームが注目されており、データエンジニア、データサイエンティスト、AIエンジニアの協業が不可欠です逆コンウェイの法則に照らせば、AIシステムのアーキテクチャに整合した組織設計が効果的と考えられ、各ロールが横断的に連携できる体制づくりが今後重要になります。
SHIONOGIデータサイエンスを支えるデータエンジニアリングと統合解析環境
坂井 聡(塩野義製薬株式会社 データサイエンス部 コンピュータサイエンスグループ サブグループ長)
坂井:解析業務の高度化・多様化に対応するため、データ解析者の思考プロセスを止めない弾力のある解析環境の必要性から、既存のオンプレミス環境からAWSクラウド環境へのリフト&シフトを実施しました。2023年下期に完成した新環境では、海外グループ会社を含む社内外のメンバーとのコラボレーションやAWSサービスの新規技術の早期実装が可能になりました。統合解析環境の特徴として、Snowflakeを軸としたセントラルデータマネジメントを構築し、各バリューチェーンから生成されるデータを効率的に管理・分析できる体制を整えています。人事・会計・営業・R&D・製造等の各バリューチェーンから生み出されるデータを、Snowflakeに分析しやすい形で格納し、社内外のデータを活用できる環境を提供しています。データサイエンス部はDX推進本部の傘下でIT部門と強固な連携を行い、データサイエンスユニットとデータエンジニアリングユニットの協力により、高品質な解析結果を迅速に提供できる体制を確立しています。クラウド環境への移行により、解析時間が最大70%短縮され、大容量データの処理も影響なく継続できるようになりました。また、外部ベンダーからのデータ受領をAmazon S3経由で行い、鮮度の高いデータをすぐに解析し業務部門に共有する流れも確立されています。今後の展望として、生成AIの活用や量子コンピューティングなど新技術への挑戦を通じて、社内DXの加速化とデータ活用人材の育成を進めていく方針です。さらに、統合解析環境をベースとしたエコシステムを構築し、アカデミアや他業種、同業他社との様々なコラボレーションを強化していきます。
Session 4:多様なサイエンティストの育成とマネジメントのあり方
データサイエンスとデータエンジニアリングを活用して変革を起こすためには、それらに精通した組織の構築と人材の育成が重要です。Session 4では、新しい時代に求められる組織・人材論について紹介されました。
【基調講演】最強のデータ分析組織の仕事の流儀~大阪ガスにおけるデータサイエンス/人材育成の進め方~
岡村 智仁氏(大阪ガス株式会社 DX企画部ビジネスアナリシスセンター所長 兼 データ活用基盤統括チームマネジャー)
岡村氏:Daigasグループでは、「お客さまのくらしとビジネスの更なる進化のお役に立つ企業グループ」という企業理念のもと、「時代を超えて選ばれ続ける革新的なエネルギー&サービスカンパニー」として未来価値の共創を目指しています。DXはビジョン実現と事業変革の手段であり、データ分析はそれを実現するための技術の一つです。データ利活用の歴史として、1990年代後半のデータ分析専門組織の設立から始まり、2010年に全社データ活用基盤DUSH(Data Utilization Support & Help)を稼働開始し、社内の様々な業務システムから生まれるデータを集約し、全社データ活用基盤として従業員に提供しています。また、Tableau活用推進に関しては、データ活用基盤統括チームが、定量効果が大きく事業部単独では遂行困難なものへの支援や、ユーザー育成などを行っています。ビジネスアナリシスセンター(BAC)は、データ分析を専業とする組織として、社員19名と外部協力者数十名の計50名以上で年間約30件のデータ分析プロジェクトを実施しています。独立採算制で運営され、社内各組織から費用を得てプロジェクトを進めています。全バリューチェーンに渡るデータ分析支援を行い、近年は複数の事業部門にまたがるビジネス課題の解決支援が増えています。データ利活用における変化として、従来から提唱しているデータ利活用プロジェクトで押さえるべき観点である「見つける」「解く」「使われる」に加え、「見極める」「紐解く」「使われ続ける」という新たな要件が重要になってきています。データ利活用人材に求められるスキルとしては、知的好奇心が必須素養と考えており、その上で、データ利活用に関する「知識」、知識を基に適切に捉え、考え、議論する「思考力」、知識や思考力を用いて課題を自ら解決しようとする「主体性」が求められています。新人には基礎編・実践編のカリキュラムを実施し、若手社員には3-4年かけて課題構造化、分析設計、分析取りまとめの研修を実施しています。
SHIONOGIのデータサイエンス人材戦略:コア人材育成と意思決定者教育の取り組み
吉田 祐樹(塩野義製薬株式会社 データサイエンス部 データサイエンス1グループ グループ長)
副島 涼(塩野義製薬株式会社 データサイエンス部 データサイエンス2グループ)
副島:塩野義製薬は1957年に設定された基本方針から人材育成を重視してきた歴史があります。社内では様々な領域別教育施策を実施していますが、ITとデータサイエンスの教育施策も多数実施しています。この教育を通じて、経験や勘だけでなく、データに基づいた意思決定の重要性が高まる中で、データドリブン型ビジネスへの変革を進めています。全社員向けのデータリテラシー教育に加え、人材類型に応じた段階的な教育を実施しています。特に意思決定者の教育として「マネジメントDXワークショップ」と「マネジャー研修」を実施しています。両者の目指すところは同じで、マネジャーがグループ・所属組織のリソースをITを使って有効活用し、より良い意思決定に取り組める状態を目指しています。特にワークショップでは、データの加工や可視化だけでなく、仮説設定の重要性と方法について重点的に解説しています。ビジネスインパクトがあり実現可能性のある仮説の選び方を指導しています。これまで30名以上が受講し、研究開発、生産、営業など様々な部署から参加があり、経営リソースを各組織で有効活用するスキルを養っています。
吉田:データサイエンス部における専門人材の育成について説明します。2025年3月時の部員24名のうち、7名のみが以前からデータ解析を担当していた人材で、残りの17名は社内の別部署や他社からの転入者です。2020年の前身組織設立以来、業務範囲の拡大とともに人員も3倍に増加し、現在はバリューチェーン全体の解析に加えてデータエンジニアリング業務も含まれています。育成方針としては2つの柱があります。1つは戦略立案のサイエンスベースアプローチの確立で、仮説ドリブンでシミュレーションや統計学を活用した数字に基づくアプローチを徹底しています。もう1つは自ら学び合う環境の構築です。「T-map」という個人のスキルや強みを全社に公開するシステムを構築し、従業員が自律的にキャリア開発できる環境を整えています。これにより、「この人のようになりたい」という明確な目標とそのために必要なスキルが可視化され、具体的な挑戦が可能になっています。これらの取り組みを通じて、年間50件以上の社外発表を実現するなど成果を上げています。
桂木:Personal Health Record(PHR)とは生涯にわたる個人の健康医療情報のことで、健診情報、予防接種歴、薬剤情報、検査結果などの診療関連情報および個人が自ら日々測定するバイタルなどを含みます。PHRは電子記録として本人などが正確に把握し、自身の健康増進などに活用することができます。健康経営のユースケースとしても活用が期待されており、経産省の健康経営優良法人認定制度の調査項目にもPHR活用に関する設問が追加されています。SHIONOGIでは、健康状態維持、早期発見から治療、そして層別化を行うトータルケアサービスの実現に向けてPHRを活用した様々な取り組みを実施しています。具体的には、ストレス予測、うつ病の再燃検知、およびPHRサービス事業協会でのライフログ標準化活動などを進めています。
中野:社内でのPHR活用事例として、セルフケアコミュニケーションPoC(Proof of Concept)について紹介します。このPoCでは、従業員のパフォーマンス向上を目的とし、従業員の状態を日々測定し、セルフケアとコミュニケーションを促す仕組みを検証しました。従業員が労働生産性、エンゲージメント、ストレスなどについて毎日回答し、そのデータを個人、職場、組織の3つのレベルで活用する取り組みです。個人では自身の状態の振り返りとセルフコントロール力の向上、職場では上司がメンバーの状態を把握しタイムリーなサポートを提供、組織では部門ごとの状態を把握し改善施策を実施します。検証結果では、参加者の5割がダッシュボードを通して気づきや行動変容があり、6割が上司とのコミュニケーション頻度が増加するなどの効果が確認できました。