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SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2026

データとともに進化する、社会の“日常”

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SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2026——データとともに進化する、社会の“日常”|Session 1:データサイエンスの最前線

生成AIの登場をきっかけに、データサイエンスはかつてないスピードで広がり、研究、医療、ビジネス、社会の意思決定の形を変え始めています。そうした時代にデータをどう活用し、どう扱うべきか。SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2026では「データとともに進化する、社会の“日常”」をテーマに、業界のスペシャリストが講演を行いました。本記事では「Session 1:データサイエンスの最前線」をレポートします。

【基調講演1】AIエージェントが進化する時代の企業の再創造について

保科 学世 氏

アクセンチュア株式会社

執行役員 データ & AIグループ日本統括 AIセンター長
アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括
博士(理学)

保科 学世 氏

保科氏は冒頭で、大規模言語モデルが仕事に与えるインパクトの大きさについて述べた。アクセンチュアのグローバルリサーチチームの調査によれば、日本では平均44%の仕事が自動化されると試算されている。ライフサイエンス領域は43%、ヘルスケアでは37%と4割に迫る水準だ。一方で、統計解析者やデータサイエンティストといった職種は、自動化されるだけでなくAIによって仕事が強化される割合も高く、製薬業界も生成AIの活用価値が高い業界と言える。

今年のAIエージェントのトレンドは2つ。1つは、自らエージェントを作る時代への突入だ。もう1つは、エージェントがフィジカルAIとともに、物理的な世界も含めアクションを起こすようになること。医療の世界でも、NVIDIAとGE HealthCareがX線や超音波撮影の自律型画像システムをデジタルツイン上で訓練・実装する取り組みが始まっている。

こうした背景のもと、保科氏は企業全体のデジタルツイン構築という視点から、3つの取り組みを紹介した。

1つ目は、企業経営のデジタルツインだ。アクセンチュアの京都AIセンターでは、人間の経営者とAIのCXOが入り乱れて経営議論を行う場を設けている。製薬会社を例に取れば、2050年の人口動態・経済動向・地球環境・疾病分布をAIがシミュレーションし、中長期戦略の議論をAIが支援する。

2つ目は「業務オペレーションのAIエージェント化」だ。アクセンチュアは世界に約80万人の社員を抱えるが、そのうちインドを拠点とする約30万人の多くが他社業務のアウトソーシングを担ってきた。その業務をAI化している。請求書支払いプロセス一つを取っても20のエージェントが協働し、すでに8割近い生産性向上を達成しているという。人間が担うのは意思決定のみだ。

3つ目は、顧客(消費者)のデジタルツインだ。国民の数万体のエージェントを生成し、そこにマーケティング施策を投入してシミュレーションするという仕組みだ。エージェントは単なるキャラクターではなく、思考回路まで再現している。「アルツハイマー認知症を取り巻くステークホルダーのニーズを知りたい」と問いかけると、関連する国民エージェントが抽出され、ニーズや施策案、バーチャルテストマーケティングの結果までが次々と生成される。

最後に保科氏は次のように講演を結んだ。

「技術の進展スピードは加速し続け、エージェント同士が自律的に連携する時代はすでに視野に入っています。企業はその変化のスピードに追いつくだけでなく、自らも柔軟に変化し続けなければならない。そして、AIという存在を人を助ける力として最大限に活かし、誰もが健康で豊かに暮らせる社会をともに作っていきたいと考えています」(保科氏)

【講演1】新生SHIONOGI創薬研究におけるデジタル活用(ケモインフォマティクス)

淺木 敏之

塩野義製薬株式会社

執行役員 創薬研究本部長

淺木 敏之

畑 貴広

塩野義製薬株式会社

医薬総合研究所 i2i-Labo所長

畑 貴広

立花 裕樹

塩野義製薬株式会社

創薬化学研究所長

立花 裕樹

はじめに淺木が登壇し、SHIONOGIの創薬研究について紹介した。低分子化合物を設計・合成するメディシナルケミストリーと、それを多面的に評価する薬理、安全性、薬物動態の各機能が一体となって進められてきたことを説明した。

「当社の強みは化合物を作って評価し、その結果を次の設計へ返す『創薬研究のエンジンサイクル』にあります。感染症領域ではその強みを背景に、HIV創薬から抗HIV薬 Dolutegravir(ドルテグラビル)、抗インフルエンザ薬 Baloxavir (バロキサビル)、さらに新型コロナ治療薬 Ensitrelvir (エンシトレルビル)へと展開してきました」(淺木)

続いて畑が登壇し、「i2i-Laboにおける『AI創薬』の推進」について紹介した。

まず畑が解説したのは、i2i-Laboにおける「AI創薬の推進」だ。i2i-Laboは、革新的技術を創薬へ実装することを目的に設置された研究所で、創薬のアーリーステージにおける高品質なシード・リード化合物の創出を担っている。

特徴的なのは、AIや計算を担うドライチームと、実際に化合物を合成するケミストチーム、そして化合物を評価するバイオチームの三者が1つの研究所に同居していることだ。デザイン・合成・評価・分析の一連のDMTAサイクルをシームレスに回せる体制が、この研究所の最大の強みである。

創薬の技術は大きく「シミュレーション技術」と「インフォマティクス技術」の2つに分類される。シミュレーション技術は化合物や標的分子を物理学的な理論に基づいてコンピューター上でモデル化し、結合実験や活性予測を行うもの。インフォマティクス技術は化合物情報をベクトルに変換し、機械学習によって活性を予測するアプローチだ。近年はこの両者が融合しつつあり、i2i-Laboではその全体を「AI創薬関連技術」と位置づけて研究を進めている。

具体的な事例として畑は2つの技術を紹介した。1つは、シミュレーション技術を取り入れたインフォマティクス技術だ。精度は高いが計算コストが膨大な量子化学シミュレーションをAIに学習させ、大量の化合物を高速・高精度でスクリーニングできるモデルを構築した。もう1つは、化合物生成AI技術だ。VAE(変分オートエンコーダー)を組み込んだ確率モデルに化合物の構造情報や活性情報を学習させ、欲しいプロファイルを入力すると対応する化合物を生成するモデルである。ただし、高次元空間でのサンプリング精度には課題が残るという。

「高次元空間では真の最適解、グローバルミニマムが見つけにくくなるという問題があります。そこで、このサンプリングのプロセスに量子コンピューターを活用できないかという研究を現在進めています」(畑)

続いて登壇した立花は、「計算科学とデータ活用による高速創薬の実現」について語った。創薬研究の開始から市販に至るまでには通常9〜17年を要する。そのような状況でCOVID-19パンデミックに立ち向かうには、いかに期間を短縮するかが最大の命題だった。

SHIONOGIが創薬標的に選んだのは、ウイルス増殖に不可欠な酵素である「3CLプロテアーゼ」だ。SARS・MERS・SARS-CoV-2のプロテアーゼは構造がよく似ており、将来的に出現しうる類似のコロナウイルスにも対応できる可能性がある。また、3CLプロテアーゼの基質特異性はヒト体内のプロテアーゼとは異なるため、選択性が採りやすいという利点もあった。加えて、SHIONOGIには他のウイルスプロテアーゼに対する創薬ノウハウと経験が豊富に蓄積されていた。また、高速創薬を実現するために、計算科学の最大活用や戦略的なデータ取得にも取り組んだ。

具体的には、バーチャルスクリーニングによってSHIONOGIの化合物ライブラリーをデジタル空間でふるいにかけ、320件に絞り込んだうえで実際の生物学的スクリーニングを実施。23化合物のヒットを獲得した。そのうち最も注目された化合物は、3CLプロテアーゼへの阻害活性こそ中程度だったものの、代謝安定性・経口吸収性といった薬物動態のパラメーターに優れていた。さらに、スクリーニングとほぼ同時期にX線結晶構造解析による複合体構造の取得にも成功した。

この構造情報の活用とデータ駆動構造最適化により、わずか4か月で活性を600倍向上させた化合物、すなわち後のエンシトレルビルを見い出した。探索研究の開始は2020年6月。通常5〜6年を要する臨床入りまでの期間をわずか13ヶ月に短縮し、2022年11月には日本において緊急承認、2024年3月には通常承認を取得した。

「コロナ禍という特殊な環境ではありましたが、このエンシトレルビルから得たノウハウは一般の創薬にも適用できるものです。現在、それを一般化して実装を進めているところです」(立花)

【講演2】SHIONOGIにおける研究DX―データサイエンスによる課題発見とソリューション

森本 健太郎

塩野義製薬株式会社

データサイエンス部 データサイエンス3グループ

森本 健太郎

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SHIONOGIにおける研究DX〜データサイエンス課題発見とソリューション〜

森本はSHIONOGIが「ユーザーの要求理解」「ドメイン知識の獲得」「ソリューションの提示」の3段階で進める研究DXのアプローチを、3つの事例とともに紹介した。

1つ目は、骨髄細胞の自動分類だ。薬物を投与したマウスの骨髄に異常が生じていないかを確認するこの試験では、大腿骨などから採取した骨髄を顕微鏡で撮像し、約20種類の細胞を人の目で分類する。1回の試験で500細胞を15匹分、それを4群に分けて扱うと総数は3万細胞に達し、従来は分類だけで100時間以上を要していた。しかも習熟が必要な作業で、スキルを持つ人材も限られていた。

そこで、AIによって、分類時間の短縮と解析期間の制約への対応を行った。AIを活用すれば画像全体を一度に処理し、その中に含まれる細胞をまとめて分類・カウントできる可能性がある。研究所内でも当初から画像解析の取り組みは進められていたものの、十分な精度が得られず、そこにデータサイエンス部が加わって改善を図った。

改善ポイントの1つが、データそのものの見直しだった。分析の結果、存在比率が極めて少ない細胞画像が精度向上を妨げていることが判明。そこで、少数クラスに対して疑似画像も含めた学習データを補い、さらに学習に適した画像を選抜して学習に用いるようにした。

また、ユーザーが収集した画像に対して、分類用の情報をすばやく修正し、高品質な学習データとして蓄積できるよう、専用のUIも作成した。次に、分類フローの変更を行った。当初は、撮像後の画像から細胞部分を切り出し、その部分ごとに分類する流れを想定していたが、検討の結果、画像全体を一度に前処理を加え、並列に処理する方式へと切り替えた。

これらの改良により精度は72%から83%へ向上し、100時間以上かかっていた分類作業は10分程度まで短縮された。

2つ目は、動物行動薬理試験の自動化だ。薬物を投与したマウスの動画から特定の行動時間を計測するこの試験では、新規物体認識試験(NORT)と首振り反応試験(HTR)が対象となった。いずれも従来は人が動画を見ながら判定しており、作業の属人化と長時間の確認が課題だった。

姿勢推定AIの活用も検討されていたが、単純に適用するだけでは精度が不十分だった。そこでデータ取得の基盤整備から着手し、アノテーションツールによるデータ品質の向上を図ったうえで、フレーム単位で動画を分類し、探索行動の自動検知を実現した。HTRについても同様の枠組みを構築した。

結果として、ユーザーの目視確認を完全にゼロにすることはできなかったものの、確認に要する時間は320分から85分へと約4分の1に短縮された。

3つ目は、心電図波形解析による不整脈検出だ。安全性薬理試験において、物質投与後にモルモットが不整脈を起こすかどうかを評価するこの試験では、見逃しが許されないという性質上、感度100%を目指す設計が求められた。

森本が提案したのは、作業フローそのものの変更だ。従来は波形全体を見ながら不整脈の有無を判断していたが、新たなフローでは波形をリアルタイムでエクスポートしながら解析アプリを並走させ、確認すべき箇所だけを研究者に提示する。R波間隔の変動値に着目し、10%以上の変動を不整脈と判定するアルゴリズムを適用することで、全候補を漏れなく抽出したうえで研究者が必要箇所だけを確認すればよい環境が整った。

「日々対面する課題は生ものであり、ユーザーの要求は一意とは限らず、短期間でのドメイン知識が容易ではないことも少なくありません。こうした制約がある中でも、データサイエンス的アプローチを活用することで、柔軟かつ迅速な課題解決が可能となり、研究DXの推進に貢献できることを示した事例でした」(森本)

【講演3】AIを用いた医薬品の開発/育薬におけるプロセスの効率化

松野 匡志

塩野義製薬株式会社

データサイエンス部 Generative AIグループ

松野 匡志

米田 卓司

塩野義製薬株式会社

データサイエンス部 データサイエンス1グループ

米田 卓司

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AIを用いた医薬品の開発/育薬におけるプロセスの効率化

SHIONOGIのデータサイエンス部は、臨床試験およびリアルワールドデータ(以下、RWD)に関連して、現在二つの新たなプロジェクトに取り組んでいる。

はじめに、松野が医薬開発文書作成の効率化について解説した。医薬開発においては、治験実施計画や治験総括報告書をはじめとする厳格な様式の文書を大量に作成しなければならない。薬事部のメディカルライティング部門では、一つの文書を仕上げるだけで数十から数百時間を要することもあり、その工数やヒューマンエラーのリスクが課題となっている。これを受け、薬事部とデータサイエンス部の共同プロジェクトとしてAIアプリケーションの開発に乗り出した。

AI活用においては、厳格な文書だからこそ逆にその構造を活かすことができる。各章ごとに「何を書くべきか」というガイドラインが明確に定められているため、その指示をAIに与え、章・節ごとに生成を制御する。

開発したWebアプリケーションでは、メディカルライティング担当者が対話的に文章を編集できる仕組みを採用。生成した内容に対して新たな指示を入れれば、該当部分だけが差し替わるようにした。最終的には社内で使用しているWordテンプレートに出力できるため、実務の流れに沿った設計になっている。

「このプロジェクトで感じたのは、すべてをLLMに任せてしまうと、高品質なものはできないということでした。従来的なPythonやルールベースのロジックをどんどん組み合わせていかないと、良いものは作れないというのが今回の学びです」(松野)

今期に実施したPoCでは治験総括報告書の作成時間を50%削減、プロトコルの作成時間を20%削減という結果が出ており、当初目標の15〜20%削減を大幅に上回る成果を達成した。この取り組みは現在、日立製作所との協業を通じて他企業への展開も始まっており、企業間の垣根を超えた非競争領域での社会貢献としても注目を集めている。

続いて米田が、育薬領域、すなわち発売後のRWDを活用したエビデンス創出を効率化する「AI-SAS for RWE」について紹介した。

RWDを用いた解析は年々活発化している一方で、データ形式がベンダーごとに異なっていたり、解析プロセスや資料がプロジェクトごとに個別最適化されたりしていることから、標準化が十分に進んでいないという課題を抱えていた。また、第三者による監視体制が限定的なため、研究の透明性への懸念もついて回る。

このAI-SASは二つのアプローチで構成される。1つはRWDの標準化だ。各ベンダーから提供されるデータをSHIONOGI独自の共通データモデルに変換し、共通の解析プログラムで分析できる状態に整備する。もう1つはRWD解析の準自動化で、リサーチクエスチョンからプロトコル作成、解析用データセットや表の生成まで、一連のプロセスの準自動化を目指している。作成の履歴はGit上に自動記録され、透明性の確保にも対応している。

「従来は数か月を要していた解析作業が、RWD解析の熟練者でなくても数時間で完了したという利用事例も確認されています。今後はさらに生成AI技術を組み込み、コンセプトシートやプロトコルの作成支援、論文作成の補助へと機能を拡張し、RWE創出のさらなる加速を目指しています」(米田)

【基調講演2】量子技術の現在地と産業化への道筋

岡田 俊輔 氏

一般社団法人量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)

実行委員会 委員長/
株式会社東芝
上席常務執行役員 最高デジタル責任者

岡田 俊輔 氏

岡田氏は、「量子技術の現在地と産業化への道筋」というテーマで基調講演を行った。

令和4年、政府によって定義された「量子未来社会ビジョン」の中で、2030年までに1000万人が量子技術を使っている状態を実現するという目標が掲げられた。現政権が重点投資対象として定めた17分野にもAI・半導体と並んで量子が明記され、日本としての産業化への意志が明確になってきている。

技術の進展という観点では、量子コンピューターの開発競争が勢いづいている。かつては「物理量子ビットを何ビット実現できるか」が議論の中心だったが、2024年あたりからエラー訂正を経た「論理量子ビット」の数をいかに増やすかへと焦点が移った。

各社が論理量子ビット1000のオーダーを目指して競い合う中、データセンターへの量子コンピューターの取り込みや低消費電力化といった実用面での取り組みも並行して進んでいる。日本では富士通が超伝導方式で商用化を進め、東京大学発ベンチャーの光量子コンピューター、京都大学発スタートアップによる中性原子方式など、複数の方式で開発が進んでいる状況だ。

組み合わせ最適化問題に特化した量子アニーリング技術においては、富士通・NEC・日立・東芝が量子インスパイアード技術をすでにサービスとして提供しており、実用段階に入っている。量子暗号通信の分野でも、東京都内13か所の拠点を相互に接続する量子鍵配送ネットワークの検証が進むなど、着実に社会への実装が進んでいる。

Q-STARは2021年に24法人でスタートし、2026年3月現在152法人が参画する産業団体だ。量子技術が解決できる問題の例として、岡田氏は交通・水資源・気候変動の三領域を挙げた。自動運転時代の交通最適化シミュレーションでは消費エネルギーを17%削減できる可能性があり、水のバリューチェーン最適化では水へのアクセス率が54%向上するという試算もある。2070年までに178兆円の損失をもたらすとされる気候変動への対応においても、量子による大規模シミュレーションへの期待は大きい。

東芝自身の取り組みとしては、20年以上の研究を経て商用化した量子暗号通信が、フランスの通信大手OrangeとのQKDサービスとして実際に稼働している。また量子インスパイアード技術SQBM+は、アロステリック創薬のシミュレーション、金融における最適銘柄選定の高速取引、倉庫ピッキングルートの最適化など、すでに複数の実用事例が生まれている。

「コンピューティング、セキュアなネットワーク、そして微細な変化を捉えるセンシング。量子技術は非常に大きな領域で期待されています。皆さんとともに、どのように使えばより良い社会を作れるのか、そして日本の競争力をどう維持していくかを考えていきたいと思います」(岡田氏)

【講演4】量子技術がもたらすビジネス変革の可能性:世界の最新動向とSHIONOGIの取り組み

田島 遼太郎

塩野義製薬株式会社

データサイエンス部 データサイエンス1グループ

田島 遼太郎

功刀 隼人

塩野義製薬株式会社

医薬総合研究所 i2i-Labo 主任研究員

功刀 隼人

Nir Minerbi 氏

Classiq Technologies

Co-Founder & CEO

Nir Minerbi 氏

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量子技術がもたらすビジネス変革の可能性:世界の最新動向とSHIONOGIの取り組み

冒頭、VTRに登場したNir氏は量子コンピューティング、特に創薬のような複雑な問題において、従来のスーパーコンピューターでは何十億年もかかる計算を短時間で解ける可能性があると強調した。

「わが社が開発したのは、量子専門家でなくても扱える量子オペレーティングシステムです。量子回路への変換はプラットフォームが自動で担うので、ユーザーは機能的な目的に集中することができます」(Nir氏)

現在、金融・航空宇宙・エネルギー・創薬など幅広い領域での応用が進んでおり、ソフトバンク・住友商事・NTTといった日本企業からの出資も受けていると話した。

続いて田島が、量子技術の基本概念を整理したうえで、SHIONOGIは今後バリューチェーン横断的に製薬ビジネスのあらゆるプロセスへ量子技術を適用していく方針であることを述べた。

特に「医療従事者への適切な情報提供」「安定供給と適切な原価の両立」「未来のパイプラインへの貢献」という3つの軸を重点領域と位置づけ、最適化計算やシミュレーションが必要な課題解決を加速させようとしている。

1つ目の事例は、MR(医薬情報担当者)の施設訪問計画の最適化だ。多数の医療施設を担当するMRは、所在地・訪問時間・訪問不可日といった複数の制約条件のもとで効率的な訪問計画を立てる必要がある。これに対し、量子アニーリング技術を活用することで、訪問計画をリアルタイムで更新・提案できるアプリケーションを構築した。

2つ目は、製造現場における生産計画の最適化だ。これまで生産計画の立案は、ベテラン作業者の手作業に頼ってきた。これでは複雑な条件のもとで多くの工数を要し、変化への迅速な対応も困難だ。そこで、医薬品生産特有の作業を加味したアプリケーションを構築し、計画立案や修正作業の自動化の道筋を示した。

3つ目は、量子コンピューターの創薬応用に向けた取り組みだ。

「現状はハードウェアの性能面に制約があるため、量子コンピューターとスーパーコンピューターを連携させる『量子HPCハイブリッド計算』に着目し、従来のスーパーコンピューター単体では解けなかった、より大規模で複雑な問題への挑戦を開始しています」(田島)

最後に登壇した功刀は、アニーリング型量子コンピューターを手がけるカナダのD-Wave社との共同研究から生まれた、量子コンピューターを活用した化合物生成AIを紹介した。

創薬現場では、効き目の強さ・吸収性・安全性など膨大な基準を微妙なバランスで満たす化合物を設計する必要があるが、既存のAIでは十分に対応できていなかった。これを解決するため、量子コンピューターを活用した。

構築したモデルは、量子コンピューターを生成AIのエンジンとして用いる設計だ。AIが量子コンピューターにQUBOと呼ばれる問題を出し、その結果を化合物に復元するという設計で、学習が進むにつれてAIと量子コンピューターが協調しながらよりリアルな化合物を生成することが期待される。

ベンチマークとして古典コンピューターのみのモデルとの比較実験を行ったところ、量子コンピューターを用いたモデルは学習データ自身よりも「薬らしい化合物」を多く生成する結果が得られた。

「今後は、研究者が薬に必要な条件を入力すると対応する候補分子を生成するモデルの構築を目指し、人のデザインとAIの生成を融合することで化合物探索をさらに加速させていく方針です。社内外のパートナーと連携しながら、製薬ビジネスの各領域への量子技術の社会実装を着実に進めていきたいと考えています」(功刀)

【特別講演】データとともに進化する、社会の“日常”

手代木 功

塩野義製薬株式会社

代表取締役会長兼社長 CEO

手代木 功

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データとともに進化する、社会の“日常”

Session 1の締めくくりは、代表取締役会長兼社長 CEOの手代木が、「データとともに進化する、社会の”日常”」というテーマで特別講演を行った。

SHIONOGIは「新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創り出す」というグループビジョンのもと、中期経営計画「Shionogi Transformation Strategy 2030(STS2030)」を推進している。2023年に発表したSTS2030 Revisionでは、感染症治療薬やQOL疾患治療薬のグローバル展開、積極投資による新製品・新規事業の拡大を成長の軸に据え、医療用医薬品の提供にとどまらず、ワクチンやデジタルツールを含む新たなヘルスケアサービスへと事業の幅を広げている。

2025年9月には鳥居薬品が、12月には日本たばこ産業の医薬事業がSHIONOGIグループに加わり、多様な知見と文化が交わる組織へと進化した。また同年11月には、創業の地である道修町から大阪梅田のグラングリーン大阪へ本社を移転。新たなイノベーションを生み出し、多様なビジネスパートナーとつながるための環境整備も、変革の一環であるとした。

そして、組織の進化には従業員の進化が不可欠だと手代木は強調する。その基盤となるのがDXの実現だ。ただし、手代木が描くDXは、ただの効率化の取り組みとは一線を画す。経営判断や現場の意思決定を、データを前提としたものに変えることで、新たな価値を創出することこそDXだと手代木は捉える。

この考えのもと、SHIONOGIは「生成AI利用率100%」という目標を掲げた。

「この目標を掲げた目的は、ただ生成AIを「使わせる」ことではありません。SHIONOGIの働き方そのものを、デジタルを前提とした姿へと切り替える、その覚悟の表明です。待ちから挑戦へ、受け身から創造へ、各自の行動が変容し、会社全体の自力を高め、変革を支える文化が醸成される——それこそが目指すDXの姿です」(手代木)

SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2026——データとともに進化する、社会の“日常”|Session 2:データサイエンスのこれまでとこれから

生成AIの登場をきっかけに、データサイエンスはかつてないスピードで広がり、研究、医療、ビジネス、社会の意思決定の形を変え始めています。そうした時代にデータをどう活用し、どう扱うべきか。SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2026では「データとともに進化する、社会の“日常”」をテーマに、業界のスペシャリストが講演を行いました。本記事では「Session 2:データサイエンスのこれまでとこれから」をレポートします。

【基調講演3】データサイエンスのこれまでとこれから

山田 敦 氏

日本アイ・ビー・エム株式会社

コンサルティング事業本部 技術理事

山田 敦 氏

山田氏は、AIがここまで進化した要因を3つ挙げる。計算機能力の向上、データ量の爆発的な増加、そしてアルゴリズムの進化だ。かつてのAIは特定の1つのタスクしかこなせなかったが、生成AIの登場以降は「基礎的な知識はすでに学習済み」という前提で動く時代に変わってきた。

AIのこれからを予測するうえで、山田氏が取り上げたのは、昨年4月にOpenAI出身の研究者らが執筆した論文「AI 2027」だ。論文には2025年から2027年までのAI進化と社会変化がリアルに描かれている。論文は2025年前半の「印象的だが不安定なAIエージェント」から始まり、社会的批判の高まり、雇用の喪失、そして2027年初頭の「自動化されたAI研究の始まり」へと至る。この段階に達すると、AIの進化は加速度的になるか、あるいはスローダウンするかのどちらかになると考えられている。

山田氏はまた、AIエージェント時代の世界観について見解を示した。

「『AIは目的変数を作れない』という点は今後も変わらないでしょう。ただし、エージェント時代に入ると、AIは与えられた目標をサブ目標へと自ら分解してタスクに落とし込むことができるようになります。人間の仕事は大目標を指示として出すことへと変化していくと思われます」(山田氏)

山田氏はまた、エージェント同士が「競う」未来について語った。善意ある人がエージェントに「この街を平和にしてくれ」と指示する一方、悪意ある人が「破壊しろ」と指示する。エージェント同士が衝突するこうした世界では、自分のエージェントが「勝てるか」という問いが現実的になってくるという。Gartnerも「2030年までにガーディアンエージェントがエージェント型AI市場の10〜15%を占める」と予測しており、こうした守りのAIへの関心が高まる流れは現実のものとなりつつある。

こうしたAI進化を踏まえデータサイエンティストの仕事がどう変わるか、山田氏は4つの変化点として整理した。

1つ目は、データ加工やモデリングといった数理の世界は基本的にAIが担うようになる。データサイエンティストの役割は指示出しとレビューへとシフトする。ただし、現場経験なしにレビューはできない。人間の専門性は依然として不可欠である。

2つ目として、言語化されていないビジネス課題を数理の言葉に落とし込む領域は、相対的な経済的価値が高まると山田氏は考える。目的変数を定義すること、何を達成したいかを問い続けることは、当面は人間の仕事だからだ。

3つ目は、顧客への説明責任だ。予測精度やビジネス効果をAIが導き出すとしても、それを顧客に説明して納得を得る仕事は変わらず人間に求められる。

4つ目は、評価軸の拡張だ。これまでのデータサイエンティストは予測精度を高めることに注力してきたが、これからは公平性や安全性といった「守りの指標」も身についていなければならない。

最後に山田氏は、仕事が変わることへの不安を和らげる視点を提示した。

「アセンブラの時代があり、OSが生まれ、ミドルウェアが生まれ、SaaSが生まれてきたように、ITの歴史はレイヤーを積み重ねてきた歴史と言えます。AIによる変化もその延長線上にある。下のレイヤーが不要になるわけではなく、上下が分離されながら、それぞれが価値を持ち続ける。この新しいレイヤーのどこにキャリアを置くかを考えることが、データサイエンスに関わる全員に問われています」(山田氏)

【講演5】SHIONOGIにとってのデータ活用とは

畑中 一浩

塩野義製薬株式会社

上席執行役員 コーポレート管掌

畑中 一浩

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SHIONOGIにとってのデータ活用とは

冒頭で畑中は、SHIONOGIにおけるデータサイエンスの位置づけを説明した。コーポレート機能としてのデータサイエンスが重視するのは、部門ごとの個別最適ではなく全社最適の視点だ。バリューチェーン全体を俯瞰し、組織の壁を超えたデータ活用と価値創出を主導する。同時に、法的・倫理的リスクの観点から攻めの活用と守りの統制を両立させ、データ基盤の構築からKPI設計、人材育成までを一気通貫で支援する。

これらを支える土台として、2024年度から本格的に取り組んでいるのが「マスターデータマネジメント(MDM)」の整備だ。業務や部門ごとにデータの定義を統一し、全社が同じデータを見て同じ前提で議論できるようにする。現在は第1ステップを完了し、営業領域を中心に運用を開始しており、今後は他領域へも展開していく予定だ。

MDMによってデータが整備されると、次に見えてくるのが、サイロ化されたデータを横断的につなぎ、研究開発から製造販売に至るバリューチェーン全体を一つの流れとして把握することだ。さらに、リアルタイムの可視化によって業務の遅延やボトルネックを早期に把握し、将来的には企業版デジタルツインによってリスクや機会を先読みする経営を目指している。

こうした取り組みを経営の意思決定に直接つなぐ手段として構築しているのが、経営ダッシュボードだ。計画と実績の乖離をリアルタイムで把握し、KPIの未達やリスク要因を早期に検出する。判断の正しさだけでなくスピード感が問われる時代において、このダッシュボードは経営をより迅速で戦略的なものへと進化させるための基盤だと畑中は語る。

そして、最終的に重要になるのは人と文化だ。SHIONOGIでは人的資本経営を推進しており、データ活用も重要な基盤の1つとして位置づけている。人事領域では、目的や観点がバラバラだった複数のサーベイを統合・共通化し、データを横断的に分析できる環境を整えた。

そこから得られた分析の結果、組織変革意識の醸成・フィロソフィーの浸透・キャリア意識の醸成という優先課題が明確になり、マネージャー研修やワークショップ、eラーニングといった具体的な施策へとつなげた。その結果、エンゲージメントのKPIは前年比で向上している。

「分析して終わらせない。データに基づいて課題を特定し、実行し、成果を検証する。このサイクルを継続的に回していくことが、人的資本経営を実効性のあるものにしていくのです」(畑中)

さらに、全社のデータ活用基盤の実装フェーズとして位置づけているのがERPプロジェクトだ。北米・欧州・日本でそれぞれ運用されてきたERPを統合し、グローバルで一貫したデータ基盤を整備することで意思決定のスピードと質を高める。ITやデータ部門だけでなく業務メンバーを含むグローバル横断のチームで推進しており、2030年の実装を目指している。

「データ活用は専門組織だけのものではなく、全社員がデータで語り判断することを当たり前にする取り組みです。その延長線上に生成AI利用率100%という目標があり、持続的な企業価値向上への道筋がある。テクノロジーとデータ、そして現場一人ひとりの情熱を掛け合わせながら、ヘルスケアの未来に貢献していきたいと考えています」(畑中)

【講演6】データとITのシナジーが生み出す組織の未来

中井 康司

塩野義製薬株式会社

DX推進本部 IT&デジタルソリューション部 部長

中井 康司

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データとITのシナジーが生み出す組織の未来

SHIONOGIでは2020年前後からITのモダナイゼーションが本格化した。その過程で浮かび上がった課題は大きく2つ。自社の業務をシステムに合わせる「Fit to Standard」と、「データ活用を意識したシステム導入」だ。中井は、飲食店経営におけるIT導入を例に、これらの課題について解説した。

1つ目のFit to Standard、すなわちシステム導入時に「自社の業務をシステムに合わせること」に関しては、飲食店舗にシステムを導入することで、業務内容が変わってしまうことへのスタッフの不安や、オーダーの仕組みが変わることで顧客から不満が出ることが予測されるなど、現状に対する変化への抵抗が懸念されると言う。

また、2つ目のデータ活用を意識したシステム導入については、モバイルオーダーシステムを導入した飲食店が、どんなデータを得たいのかを定めないまま構築を進めた結果、誰も見ない棒グラフだけが残った例を紹介。どんな情報を取り込み、どんな分析をしたいかを設計した上でシステムを導入することは重要であるが、そこに難しさがあると中井は語った。

こうした困難の背景には、データ部門とIT部門の考え方の違いがある。データ部門は「何を見せて行動を変えるか」というデザイン思考で動く。一方、IT部門は「現状の業務を論理的に分析し、最適化されたシステムに従業員を合わせる」という論理思考が根底にある。

SHIONOGIでは、この構造的な対立をどう乗り越えてきたか。

短期的には両部門の密なコミュニケーションで対処しながら、より根本的な解決策として「DX指針」の言語化に取り組んだ。両部門長が相互理解した内容を文書化し、テクノロジーの応用力とデータ活用力を高度に組み合わせて革新的な解決策を生み出すという協力関係を、両部員に展開した。ITツールコミュニティの運営によるユーザー間の相互学習環境の整備、マネージャー同士が気軽に課題を突き合わせる連携会議を運営することで、少しずつ効果を上げてきた。

社内プロジェクトへの関与の仕方も独特だ。通常はプロジェクトリード・業務側リード・IT部門の3者体制で進むところ、SHIONOGIではデータ部門を早くから巻き込む。これにより、データドリブンな意思決定につながるシステム導入を可能にしてきた。

一方で、まだ解決すべき課題は多いと中井は話す。経営目標からデータ設計・ビジネスプロセス・IT実装へと一気通貫で設計するエンタープライズアーキテクチャの進化、PoCで成功したものを全社展開する仕組みの構築、そしてグローバル企業としてこの連携をグローバルに拡大していくことだ。

「データとITの共創を強みに、アイデアから価値化までの俊敏化、データによる事業拡張、そしてガバナンスとセキュリティ強化に取り組んで、SHIONOGIらしいDXで成功していきたいと思います」(中井)

【基調講演4】AI・データサイエンスによる業務改革

西脇 資哲 氏

日本マイクロソフト株式会社

業務執行役員 エバンジェリスト

西脇 資哲 氏

西脇氏は、「AI・データサイエンスによる業務改革」というテーマで、生成AI時代に必要なスキルや実際の活用例について解説した。

生成AIが本質的に変えたのは、人間とコンピューターの関係だ。かつてはプログラミング言語やコマンドを習得するなど、人間側がコンピューターに近づく必要があった。生成AIの登場でその関係は逆転し、コンピューターが人間の言葉を理解するようになった。自然言語さえ話せれば誰でも使える。

そんな時代にあって、西脇氏が強調したのは「指示する力」の重要性だ。生成AIに依頼して出力された結果が自分の思い描いていたものではなかった場合、何が足りないかAIに伝えられるかどうか。

「その一言を言えた人は目標を達成し、言えなかった人はAIへの不信感だけを抱えて使わなくなってしまいます。AIに6〜7割やってもらって、会話を重ねながら100%に近づけていく。この姿勢が大事なのです」(西脇氏)

実際、経済産業省でも、生成AI時代に必要なスキルとして「問いを立てる力」を筆頭に挙げている。

講演ではさまざまなデモンストレーションが展開された。世界各国の金利を表形式にまとめ、各国の経済政策コメントを追加し、中国語・アラビア語への翻訳まで、会話を重ねるごとに資料の精度が上がっていく様子がリアルタイムで示された。

また、Excelでは患者アンケートのフリーコメントをポジティブ・ネガティブに自動分類し、カテゴリーの定義すら指定しないままAIが最適な分類軸を提案した。ホワイトボードに書かれた医師のメモを写真に撮って渡すだけで、患者プロフィールから経過・直近の容態まで整理されたテキストが生成される。

コンタクトセンターのデモでは、AIが顧客情報・購買履歴・製品マニュアル・過去の問い合わせ事例・店舗在庫を横断的に参照しながら会話を進める様子が紹介された。生成AIで文章や画像を作るだけでなく、企業内のあらゆるデータを活用して顧客体験そのものを変える。

「世界の情報のうち生成AIが学習しているのはわずか0.0017%にすぎません。残りの99.9%超は企業・病院・工場・自治体の内部にあります。そこにアクセスし、既存ツールと連携できることが、マイクロソフトが選ばれる理由です。ExcelやWord、Outlookに組み込まれたCopilotは、社内メールや会議録、ファイルをセキュアに参照しながら仕事を補佐します。AIと協力することで、皆さんの価値がさらに高まる。そういう世界を一緒に目指しましょう」(西脇氏)

【講演7】目指せ! 生成AI利用率100%

西村 亮平

塩野義製薬株式会社

データサイエンス部 Generative AI グループ長

西村 亮平

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目指せ! 生成AI利用率100%

SHIONOGIでは、生成AIの利用率100%を目指している。それに向けて、これまで大きく3つの取り組みを行ってきた。西村は、塩野義製薬における生成AIの活用について紹介した。

1つ目は、社員が安心して使える汎用AIアプリの整備。市場のSaaSをそのまま導入するのではなく、エンタープライズとしてのガバナンスやセキュリティを考慮した形でカスタマイズし全社展開してきた。2つ目は、特化アプリの開発・導入。バックエンド業務やビジネスニーズに基づいたアプリケーション開発だ。3つ目は、教育と風土改革だ。どれだけ環境を整えても、使い方を知らなければ意味がない。

発足から約1年半を経た現時点での生成AI利用率は60%未満。ここでいう利用率とは「週3回以上業務で使っている人の割合」だ。内訳を見ると、「めっちゃ使う」が10%、「フツーに使う」が40%、「便利かもと思っているが使いこなせていない」が40%、「使いどころが分からない」が10%ほどだという。

「ヘビーユーザー層には制約やガバナンスとのアンマッチが壁になっており、使いたい技術に踏み込めないという機会損失が生じています。『フツーに使う』層は学習意欲は高いものの、既存業務への適用にとどまりがちで、AIを前提にした業務の組み換えはイメージできていません。『便利かも』の層は、価値は理解しているが実践が伴っていない。最後の層は、そもそもユースケースが見えていない状態です」(西村)

こうした分析を踏まえ、西村は層ごとに「加速」「レベルアップ」「底上げ」「巻き込み」と打ち手を分け、それぞれに異なる施策を同時並行で進めていった。

ヘビーユーザー向けには、ChatGPT Proやローカル LLM環境、Google系サービスなど、ハイパフォーマンス向けのツールを積極的に投入し、一定の実績を経て全社展開の可否を判断するという柔軟なアプローチを採用。

「フツーに使う」層と「便利かも」層に対しては、社内外の事例を抽象化・体系化して横展開する取り組みが中核となる。経営層からの発信や社内Webページ、社内イベントでの紹介など、事例の浸透を図る。教育プログラムについては、エントリーからスペシャリストまでを網羅する内容をパッケージ化し提供する。

使いどころが見えていない層に対しては、あえて目先の変化を追わず「外堀から埋める」戦略を採る。日常業務の中でできることからやっていくことで、「気づいたらいつの間にか使っていた」という状態を積み上げることを目指している。

西村は最後に、AI浸透の体制構築について、ベンダー各社や外部有識者など外部パートナーを巻き込むことの重要性を述べた。外部パートナーが直接ユーザーをサポートできる体制を整えることで、速度と専門性が補えるというヒントを語り、講演を結んだ。

【講演8】データエンジニアの役割と挑戦 -DX指針×データエンジニアリング×人的資本経営-

今井 雅之

塩野義製薬株式会社

データサイエンス部 データエンジニアリング2グループ長

今井 雅之

秦 彩乃

塩野義製薬株式会社

データサイエンス部 データエンジニアリング2グループ

秦 彩乃

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データエンジニアの役割と挑戦 -DX指針×データエンジニアリング×人的資本経営-

はじめに、今井が、SHIONOGIにおけるDX指針の策定および、データサイエンス部のアクションプランについて紹介した。

SHIONOGIでは2025年度、「テクノロジーとデータと情熱でヘルスケアの未来を変える」というメッセージのもとDX推進に取り組んだ。テーマは3つ。グローバルファーマへの成長、次世代ファーマへの進化、組織と人材の強化だ。

データサイエンス部はさらに具体的な目標を立てた。グローバルファーマへの成長という文脈では、グローバルでのデータ連携が完了し、各エリアでの製品や経費の状況をリアルタイムで把握、迅速かつ的確な予算・SCM運営や意思決定を可能にしていくという姿を目指す。次世代ファーマへの進化という文脈では、各バリューチェーンで新たな価値創造につながるデータ利活用の推進を進めている。組織と人材の強化に関しては、2025-2026年度では特に生成AIの利用率100%を目指して活動を進めている。

「データサイエンス部の業務の本質は、各バリューチェーンの業務をよく理解し、皆様と連携しながら価値を生んでいくことにあります。積極的な提案を行って、バリューチェーンの皆様と共に変革を遂行していく存在を目指しています」(今井)

後半は、データエンジニアリング業務と人的資本経営に向けた新たな挑戦について、秦から紹介があった。

秦が注力する取り組みが、企業内の健康関連データを活用した人的資本経営ソリューションの開発だ。勤怠や研修履歴、エンゲージメントサーベイ、人事情報といった多くの企業がすでに保有しているデータを広義での「健康関連データ」として捉え直す。例えば勤怠データは働き方そのものを映し出し、ストレスや睡眠との相関が先行研究で明らかになっている。

「これらのデータを活用してメンタル不調による休職予測や労働生産性の評価、モチベーションの可視化ができれば、私たちがすでに保有しているデータの価値を高めることができます」(秦)

個人のQOL向上が組織全体の生産性向上や医療費抑制につながるという好循環の実現を見据えており、この課題はSHIONOGIだけでなく多くの企業に共通することから、広く社会への価値提供にもつながると秦は言う。

一方で、社内データの活用には多くのハードルが立ちはだかる。データの部門間の分散、オーナーシップの複雑さ、従業員からの同意取得、データ品質のばらつき——これらを乗り越えるために、人事や法務等の関係するステークホルダーと連携しながら社内規則の整理、同意文書の整備、法的妥当性の検証を地道に進めている。

そして、何より重視しているのは、従業員が安心してデータを提供できる透明性の確保だ。どのデータをどのような目的で使い、それらが従業員に対してどのようなメリットを生むのかなどを丁寧に説明することで従業員からの理解と共感を得ることが、データ活用の土台となる。

「取り組みの方向性は2つ。社内の人的資本経営領域にデータで価値を創造することと、外部協創を通じた新規事業の創出です。後者では特にメンタル領域をフックに、人的資本関連のドメインナレッジを持つ日立製作所との協業を進めています。社内で得た知見を外部事業に活かし、社外で得た知見を社内に還元する——このサイクルを回しながら、本分野をリードするポジションを確立していきたいと考えています」(秦)